バリ島の音楽2―異文化学習の第1歩


 バリ島の「ケチャ」。上半身裸の男性100名前後があぐらをかいて、4重ほどの円陣を作り、「チャッ」、「チャッ」、「チャッ」、「チャッ」叫び続け、その円陣の中で優雅にバリ舞踊が踊られる。バリ島観光の目玉だ。だれでも、その圧倒的な迫力に言葉を失う。

 芸能山城組の前身「ハトの会コーラス」が、1970年代始め、民族音楽学者の小泉文夫の助言を受けて、「ケチャ」を世界初演した。「ハトの会コーラス」は、後に発展的に「芸能山城組」となり、毎夏、新宿三井ビルディング の55広場で「芸能山城組ケチャまつり」として「ケチャ」を始めとする様々な芸能を演じ、今年で第41回を迎えた。

 「ケチャ」は、日本では「ケチャ」と呼ばれるが、バリ島では、「チャ」と呼ばれている。かつては、猿の合唱と言われることもあった。「チャッ」が間違って猿の鳴き声と思われたらしい。「ケチャ」は、楽器のない声によるミュージカルのような芸能で、物語を盛り上げる100人ぐらいの男性による合唱や歌の伴奏の中、舞踊や語りでインドの「ラーマヤナ物語り」が演じられる。非常に緻密なリズムを物凄い速さで、最低4つ以上重ねて、歌い続ける。リズムは、16ビートで、ロックよりも複雑で、世界で最も速い魅力的なリズムの合唱と言われる。日本人の伝統的な音楽の在り方と異なる「イン・テンポ」、一瞬たりとも速さを動かさない厳格なテンポ感だ。

 私は、すぐさま、「ケチャ」を習った。「チャッ」、「チャッ」、「チャッ」、「チャッ」と叫び続けることは容易くはなく、始めは、つばがたまり、「イン・テンポ」ができなくて困ったものだった。私は、小学生や大学生や合唱団と「ケチャ」をやった。子どもも、大学生も皆「ケチャ」に夢中になる。どんな人も、「ケチャ」をやると心や身体が解放されて、愉快な気持ちになる。指揮者のいないリズムの複雑なとても速い合唱だから、コミュニケーションが大切だ。西洋の合唱は、ソプラノ、アルト、テノール、バスなどと異なるパートに分かれ、それぞれのパートはまとまり、指揮者によってパートを合わせる。ケチャは、前後左右、違うリズムの人が座る。違ったリズムが聴こえて来るから合わせられるという考え方だ。西洋の合唱では、楽譜を使って音楽を覚える。「ケチャ」は、一切楽譜を使わない。口承だ。異文化学習の第1歩として、「ケチャ」は、最適だと私は思う。