今、シュタイナー学校から学ぶものーミュンヘン・シュタイナー学校見学記ー                        

宮城教育大学 降矢美彌子

  

日本では、子どもの教育が、家庭でも学校でも、大きな問題になっています。学校では今、心の教育ということが、言われていますが、多くの人々が、このままでは、日本の将来はどうなってしまうのだろうという不安を感じています。そのような中で、ここ数年来、魂の教育と言われるシュタイナー学校が注目され始め、東京には、シュタイナー学校も出来ました。

また、かつて宮城教育大学の講堂でも、シュタイナーのオイリュトミーの講座が開らかれたことがあります。私は、十数年来、シュタイナー教育に興味を持っておりましたが、この6月、恩師のクルターグ先生が音楽のノーベル賞といわれるジーメンズ賞を受賞され、その授賞式と記念演奏会にご招待を受けてミュンヘンを訪ねることとなり、念願かなってミュンヘンのシュタイナー学校を見学することが出来たのです。

  シュタイナー学校はルドルフ・シュタイナーによって1919年開設され、現在ドイツ国内に95校余り、その他の国に約195校あります。ドイツにはこの他、設立者のシュタイナーの哲学に基づいた、障害者のためのシュタイナー学校や有機農法による農場や病院等があります。学校は、非常に独自な理念とカリキュラムを持って、総合的な人間教育を目指して教育活動を行っています。本当に自由で自立した子ども、だからこそ、自由の中にルールのあることを自らつかむ子どもを育てたいのだと先生は語ります。

 シュタイナーによる学校や病院は、まず建物そのものが独特です。教室には、直角がありませし、天井も平面ではありません。教室の壁は、各学年によって、その年齢の子どもの学習に相応しい色に塗り分けられています。例えば、1年生の教室は、まるで母親の子宮の中で守られるかのように、濃い桃色で暗めの照明、2年生では、オレンジ色、3年生では、黄色というように。上級生では、寒色の薄い水色になっています。

 シュタイナー学校には、教科書も通信簿もありません。低学年には、もちろんテストもありません。この学校では、テレビなどの機器類を一切使いません。小学校から高校までの12年間の総合学校で、頭の教育、心の教育、そして手の仕事の教育という3つの教育が柱になっています。担任は1年生から8年間持ち上がり、その後、卒業までもう1人の先生が担任します。まるで親のように長期間、1人の担任が、子どもの成長を見守り、責任をもつのです。シュタイナー教育では、軽度の障害者もいっしょに学びます。そして、信仰を持たない自由を認めつつ、宗教教育を行っています。シュタイナーの宗教教育は、人間より何か偉大なものに対する畏敬の念をもつことを目指した教育です。

  低学年では、心の教育、手の仕事の教育が優先です。1年生の手の仕事は、女の子も男の子も編み物です。陶芸、木彫り、木工など様々な手の仕事を終えた12年生は、最後に人間の頭部の彫刻をします。ここでは、全ての作業に男女差がありません。深く、本当に感じるということを大切にし、そこから自発的な学びを育てるのです。

 全ての学習は芸術で統合されます。国語や算数でさえ、フォルメンといって図形を沢山描き、色を塗るという独特の作業を通して、子どもの心深く受けとめられます。授業は、エポック授業といって3ー4週間、1つの教科を毎日集中的に学ぶやり方で行います。オイリュトミーという独特の身体芸術を必修にしています。オイリュトミーは、「からだを動かす芸術」「意識の芸術」というべきもので、詩や音楽を身体の動きで表します。全ての子どもが、1つ以上の楽器を学び、オーケストラに属します。8年生と12年生は、1年かけて全員で劇を作り上げ上演します。シュタイナー学校では、公立の学校と異なって、いわゆる頭の教育の量は、圧倒的に少ないのですが、ドイツの大学資格試験・アビトウーアでは、公立の学校に全くひけを取りません。

 ミュンヘンのシュタイナー学校は、ミュンヘンのレオポルド通り17番地にあります。ミュンヘンは、ドイツの3番目の大都市、歴史ある古い建物とモダンな建築が、調和した美しい街です。1年生の子どもたちは、手の仕事の時間には、思い思いの色の毛糸を使ってマフラーやリコーダーの袋編みに集中し、フランス語の時間では、笑い、歌いながらはじけるようにフランス語を学び、図画の時間には、赤、黄、青の3色の絵の具を自由に混ぜ合わせながら、夏の花畑を描いていました。私は、ここで学ぶ子どもたちの姿を見て、深く心揺り動かされたのでした。

 治療オイリュトミーのエリカ・ライセ先生は、私にまあるくつるつるした石を握らせて、次のように語りました。「この石も、もとは、ごつごつした石だったのです。何百年もの間、風が波を起こし、その波に転がされて、石は、このように美しくまあるくなりました。私達は、この学校で、オイリュトミーによって、子どもたちの身体に風や波を起こし、その波で魂を転がさせ、この石のように調和のとれた人間に育てていくのです。」このようなシュタイナー学校の教育は、日本の心を育てる教育という課題に大きな示唆を与えてくれるに違いありません。(1998.6.ミュンヘンにて)