ヨーロッパの音楽会便り

ー菊地裕美さん・波木井賢さんのクルターグ作品演奏ー


 菊地裕美さんと波木井賢さんは、 1998 年のミュンヘンにおける「ジーメンズ賞」受賞式での演奏からずっとクルターグ作品を演奏しています。お二人の真摯な演奏と演奏への取り組みに感謝して、クルターグは「Concertante...for violin , viola solo and orchestra fur Hiromi und Ken Op.42 (コンチェルタンテー裕美と賢へ)」( 2003 年 コペンハーゲン初演)、と Op.43 「Hipartita(ヒパルティータ)」( 2005 年 ベルリン初演)を贈呈、この 2 曲はクルターグの作品群の中でも最も注目 される作品となり、初演以来、お二人はヨーロッパやアメリカで数多くの演奏活動を行なっています。特に昨年のクルターグ生誕 80 年では、飛行機や列車を乗り継ぎ、連日のようにコンサートをこなされました。この「ヨーロッパの音楽会便りー菊地裕美さん・波木井賢さんのクルターグ作品演奏ー」では、お二人から寄せられるクルターグ作品の演奏会の模様など掲載 します。 
クルターグ作曲 Hipartita (ヒパルティータ) 新聞批評 

クルターグ作曲 Hipartita (ヒパルティータ) 新聞批評


ロンドン
演奏日及び会場:2006年11月9日 ロンドン・ウィグモアホール (Wigmore Hall)
掲載紙:タイムス (TIMES) 2006年11月13日付
批評: クルターグの作曲スタイルの荘厳さは、イギリス初演の行われた30分にわたる彼の新しい”Hipartita”ー その名前は 古典的形式である パルティータと素晴らしい演奏者である菊地裕美(Hiromi)の名前の最初の文字からなっているーにもよく表されていた。菊地裕美は その音楽を 記憶と心に宿らせているもののみが可能な深い感情をもって演奏した。

掲載紙:ファイナンシャル・タイムス (FINANCIAL TIMES) 2006年11月14日付
批評: 菊地裕美の 曲に対する崇高な姿勢と 明晰さはすばらしく、その演奏はまさに曲が求めるように 非常に上質で知的であった。

掲載紙:ミュージックOMH (MUSIC OMH)
 ウィグモアホールでのクルターグ80歳記念コンサートで この曲の献呈をうけた菊地裕美によって ”Hipartita” が演奏された。 クルターグ 作品のハンガリーの出版社が 最短でも2007年の終わりまで彼女だけがこの作品を演奏できることを 公表したが、彼女の演奏を聴いた後には それがなぜなのか よく理解することができた。
 それは 彼女のパーソナリティーに結びついた音楽である。− 特に 重々しい「山へ登る」の曲の演奏が 心を打ったが、菊地裕美の重厚な音は 修行者の霊山に登る 重々しい足取りのようであり、また その間に表される 彼女の素晴らしいピアニッシモは 彼らの清澄さをあらわすかのように 印象的であった。

ウィーン
ウィーン現代音楽祭(2006年11月17日 ウィーン コンツェルトハウス モーツァルトホール(Konzerthaus Mozartzaal)
掲載紙:ディー・プレッセ(Die Presse)2006年11月20日付
批評:この ”Hipartita”(ヒパルティータ)は クルターグが菊地裕美の今までの 彼の作品演奏の素晴らしさに対して、感謝の気持ちを表すために作曲したものである。その演奏は 一秒たりとも 目をそらすことのできないほど、魅了され、耳を傾けさせるものであった。

掲載紙:ドレープンクトクルトゥーアー文化の転回点ー (Drehpunktkultur)
批評:
 菊地裕美 の演奏姿は 最高の禅師の弓を射る姿のようであった。最高度の集中、そして信念の力、それによって 音楽が彼女自身から湧き出てくるようであった。忘れることのできない 夕べであった。

ニューヨーク
掲載紙:
 ザ・ニューヨーカー(The New Yorker) 2006年12月4日付
批評: 私は ウィーン・コンツェルトハウスで行われた、ウィーン現代音楽祭が提供したいくつかの クルターク・コンサートのうちの ただ一つしか聴くことができなかったが、しかし 私は非常によい選択をした。それは ヨーロッパのコンサートホールだけが創り出すことのできる、奏でられた音が あたかもホールの壁からささやきかけてくるような神秘的な体験でした。ヴァイオリニストの菊地裕美は 空想と瞑想が交互にあらわれる8曲からなる”Hipartita”を 驚異的な説得力をもって すばらしい演奏をした。

日本
掲載誌:
『音楽の友』2007年1月号海外レポート・オーストリア(From Abroad Austria)
批評:秋に盛んな現代音楽!
 現代音楽祭 「ウィーン・モデルン」では ジョルジュ・クルタークの生誕80才を祝って、彼の作品をメインにプログラムが組まれた。 彼の信頼を得ている菊地裕美がなかなかの活躍ぶりで、夫君でアムステルダム・コンセルトヘボウ管首席ヴィオラ奏者、波木井賢との共演による「Concertante...for violin , viola solo and orchestra fur Hiromi und Ken Op.42 ヴァイオリン、ヴィオラとオーケストラのための...コンチェルタンテ...」(2003)が話題になった。菊地に献呈された同作品はドッペルコンチェルトないしシンフォニア・コンチェルタンテのスタイルにより、繊細さと強度の集中力が求められていて、菊地の特性がよく引き出されるように書かれているようだ。(3日、コンツェルトハウス)。
 菊地による2曲目は 「Hipartita ヴァイオリンのためのヒパルティータ」 op.43(2005)オーストリア初演で、8部分からなる無伴奏の作品。この晩の後半は、クルタークがマルタ夫人とピアノ連弾を行い、これがまた大喝采を浴びた。ピアノ教則本としてはバルトーク<ミクロコスモス>と並ぶクルタークの<ヤテコク>(降矢注 「ヤーテーコック」原題ハンガリー語「遊びーピアノのためにー」)、それにピアニーノ(アップライトピアノ)用に編曲した作品等を老夫婦が無心に演奏し、長男が音響効果を担当、厳しい作曲家が別の側面を見せたような微笑ましいイヴェントだ(17日)。

掲載誌:『レコード芸術』 2007年1月号「海外楽信  U.K. ロンドン」
批評: モーツアルトに明け暮れた今年、ロンドンのウィグモア・ホールは今年80歳を迎えるハンガリーのジェルジー・クルタークのミニ・コンサート・シリーズとベンジャミン・ブリテンの没後30年を記念コンサート・シリーズという、ふたつのユニークな特集を組んだ。
 クルタークのために企画されたのは3回のコンサートだ。まず9月20日、彼の影響を受けた英国の若手作曲家トマス・アデスと歌手たちによる演奏会、10月26日の演奏会はリスト音楽院で彼に薫陶をうけたケラー四重奏団によるバッハとクルタークのプログラム。
 「私の母国語はバルトーク、そしてバルトークの母国語はベートーベンです。」と言うクルタークに大きな影響を与えたもうひとりの作曲家はバッハだ。 
 11月9日の演奏会前半はオランダ在住のヴァイオリニスト菊地裕美による無伴奏ヴァイオリンのための”Hipartita”の英国初演。この曲はここ9年近くクルタークの”ミューズ”といっても良い彼女のために(題名のHiはHiromiの頭文字をとったもの)書かれた30分もある大作だ。
バッハのパルティータを意識して書かれたこの曲はクルターク特有の精神性と超絶技巧を備えた秀作でクルタークの代表作となる事は間違いない。菊地の集中力と完成度の高い演奏に大きな拍手が送られた。後半は作曲家自身が彼の良き伴侶であり、また自身リスト音楽院教授を永く努めた夫人マルタと一緒に有名な彼のピアノ小品集<ヤテコク>(降矢注 「ヤーテーコック」原題ハンガリー語「遊びーピアノのためにー」)を演奏した。