クルターグ生誕80年記念連続演奏会

ーハンガリー・ブダペシュトー


 

 1926年2月19日ルーマニアのルゴシュで生まれたハンガリーの作曲家クルターグ・ジェルジュ(Kurtag Gyorgy)の生誕80年を記念して、ハンガリーの首都ブダペシュトで、2月15日から19日の5日間にわたって記念演奏会が行われた。クルターグは、1998年、エルネスト・フォン・ジーメンズ賞(ミュンヘン)、ヨーロッパ作曲賞、2000年、ジョン・ケージ賞(ニューヨーク)、2003年レオーネ・ゾーイング音楽賞(コペンハーゲン)、2006年ルイスヴェレ・グラウェマイヤ大学による作曲賞(アメリカ)など多くの音楽賞を受賞するなど、21世紀前半、最も活躍する作曲家として、ヨーロッパの各地で演奏会が重ねられている。
 

 特筆に価するのは、まるで日記を書くように友人たちにあてて短い作品を日々書き続ける一方、自らの作品に厳しく、すべての作品において改作に改作を重ねて来た寡作の作曲家クルターグが、80歳を前に、<コンチェルタンテ ヒロミとケンへノ.Concertante ノfor violin , viola solo and orchestra Op.42>( 2003 作曲 2004年9月コペンハーゲン初演>、<ヒ・パルテイータ(ヒロミへのパルテイータ)Hipartita Op.43 >(2000-2004年作曲 2005年9月 ベルリン・フィルハーモニー初演>という最も長い作品群を作曲していることであろう。クルターグは、2002年に本拠をフランスに移した。

 生誕80年記念演奏会で演奏された13曲の内、5 Zwiegesparach, (15日), Hipartita(Op.43),6 moments musicaux(Op.44), 4 initium ,Progress No.2(16日, A csuggedes es keseruseg dalai Op.18(19日)がハンガリー初演であった。演奏会では、演奏に先立って、クルターグの作品についての講演がパップ・マルタ、ファルカシュ・ゾルターン、ウイルヘイム・アンドウラーシュによって行われた。また、一人息子である作曲家・シンセサイザーニストのクルターグ・ジュニア(KurtagJr.)との協演や写真家である孫娘クルターグ・ユデイット(Kurtag Judit)によるヴィデオ作品の上演も行われた。後日、クルターグ夫妻によるピアノ・コンサートも行われた。5日間の演奏会のプログラムの概要は、別記の通りである。会場となった新しい<芸術の宮殿>やリスト音楽大学大ホールは、ハンガリー在住の音楽家や芸術関係者に加えて、母国のハンガリーで長年クルターグの作品を聴き続けた年配の聴衆や若い聴衆で、満員の盛況であった。私は、18日、19日のみ聴くことができたが、今回の5日間の連続演奏会の演奏の質の高さは、口々に語られた。5日間の演奏会には、100回を超えるリハーサルが行われたという。

 クルターグは、長年、母校のリスト音楽大学で室内楽の教授を務め、ヨーロッパの各地でマスターコースやワークショップで室内楽の指導を行っている。バルトークは、作曲家、演奏家(ピアニスト)、音楽学者の三つを探求したが、クルターグは、作曲家、演奏家(ピアニスト)、教育家の3つを統一的に持っている。彼は、どんな時も大きな喜びと情熱をもってレッスンに臨み、ピアノを弾き、歌い、1音1音に意味を求める指導を行う。クルターグは、世界の各地のコンサートに立会い、夫人のマールタ(Kurtag Marta)とともに徹底したレッスンを行う。クルターグは、すべての音と沈黙に意味があること、音や沈黙のつながり、つながりとつながりの意味ある関係を大切にする。
 

 しかし、多くの場合、特にオーケストラを伴う場合、スケジュールの関係で、十分なレッスンを行うことができずに、作曲家の十分な意図が組み取られないまま初演が行われることが多い。一昨年6月に日本で行われた読売日本交響楽団(指揮 ゲルト・アルブレヒト)による<コンチェルタンテ ヒロミとケンへ>の初演もその意味で残念な初演となった。生誕80年記念演奏会では、100回を超えるリハーサルが行われ、そのことがクルターグへの何よりもの贈り物になったのではないかと言われていた。合唱曲のその半分以上の65回のレッスンが行われたという。指揮は、かつてハンガリーを代表するピアニスト三羽烏の一人であったコチシュ・ゾルターン。コチシュは、20代からクルターグの作品を数多く演奏し、代表作の1つと考えられる<クワジ・ウナ・ファンタジアノquasi una fantasia ノOp.27 No.1>(1987-1988年作曲 1988年10月ベルリン初演)やダブル・コンチェルトOp.27(Op.27 No.2<known as Double Concerto> for piano and violincello solo and two chamber ensembles)(1989-90年作曲)などを贈呈され、数多くの初演や演奏を行ってきた。コチシュの指揮は、クルターグの意図を真摯に汲み取ろうとする姿勢が伝わり、作品の骨格のよくわかる好演であった。

 <コンチェルタンテ ヒロミとケンへ>の菊地裕美(ヴァイオリン)と波木井賢(ヴィオラ)は、2004年の初演以来、主にヨーロッパの各地でクルターグ作品の演奏を重ねている。この作品は、初演から大幅な改作が重ねられて今日に至っていて、2006年のルイスヴェレ・グラウェマイヤ大学の作曲賞の受賞対象の作品となっている。会場のリスト音楽大学の大ホールは、ステージが狭く、残念ながらソロとオーケストラの音量チェックが十分でなかったこともあって、音量のバランスに課題が残ったが、作曲者との共同作業に裏付けられた演奏は、深い説得力をもち、特に最終6小節の下降するスケールのデユオの美しさは、絶品であった。(ハンガリー語表記は、ネット上文字化けしてしまうので、クルターグ夫妻の表記など、母音上の表記を省いたことをお断りする。)2006.3.13