クルターグと菊地裕美(ヴァイオリン)さん&波木井賢(ヴィオラ)さん

 <コンチェルタンテ ヒロミとケンへ>の作曲について、クルターグは、後に次のように語っている。「部屋にこもって、2年間、庭にでることすらなかった。」ピアノ弾くことを無常の喜びとするクルターグが、「この作曲の間、ピアノを弾くこともできなかった。」

 菊地裕美さんと波木井賢さんは、在アムステルダム、裕美さんは、桐朋学園在学中に第49回NHK・毎日新聞社共催 日本音楽コンクール第2位、研究科終了後、文化庁在外研究員としてドイツ・ケルンの音楽大学へ留学、以後、多くのコンクールに入賞、アムステルダムを根拠に各地で演奏活動、波木井さんは、東京藝術大学の修士課程を終了後、ドイツのケルンに留学、現在コンセルトヘボー管弦楽団のヴィオラのコンサート・マスターを務める。二人は、1998年ミュンヘンで行われたクルターグのジーメンズ賞の授賞式で演奏を行い、以来、近年は、オルランド・トリオとして、或いは、ソロやデユオとして多くの初演を行ってきた。

 ハンガリーの作曲家クルターグと裕美さんと賢さんの本当の意味での共同作業は、2003年レオーネ・ゾーイング音楽賞(コペンハーゲン)の際初演された<コンチェルタンテ ヒロミとケンへ....Concertante...for violin , viola solo and orchestra Op.42>( 2003年 作曲 2004年9月コペンハーゲン初演>に始まった。クルターグは、この作品で、2006年4月にルイスヴェレ・グラウウェマイヤ大学による作曲賞(アメリカ)受賞した。


菊地裕美さん
 作品の草稿は、ほぼ2002年秋にはできあがって、クルターグと裕美さんと賢さんは、ファックスなどを使って連絡を取り合った後、暮れからお正月にかけて、フランスのボルドーに近いCubzacのクルターグの自宅に滞在して、毎日午前3時間、夜3時間のレッスンを受け、クルターグは、二人のレッスンをしながら、作品の推敲を重ねた。大晦日と元旦の午前中だけレッスンがなかったという集中的なレッスンであった。クルターグの夫人、マールタは、いつもレッスンを共同で行う。夫妻は、各地でピアノ・デユオの美しいコンサートを重ねている。クルターグは、その後、この時の草稿を破棄し、3月頃から新たに書き始めたという。

 ハンガリーには、クルターグの作曲について、以下のようなエピソードが伝えられている。「聞いたかい?クルターグがついに作品を書き上げたんだって。」「それは、凄い。一体どんな作品?」「一つのゲネラル・ポーズ。」

 初演に先立つ7月、二人は、今度は約3週間クルターグの自宅に滞在し、再び午前3時間、夜3時間のレッスンを受けて、9月の初演に向かった。この夏は、時に40度近くにもなる暑さで、この共同作業は、4者にとって21世紀初頭の最高傑作の1つと考えられる壮大な作品の生みの苦しみと喜びの作業であった。


波木井賢さん

 クルターグは、すべての音と沈黙に深い意味を込める。すべての音と沈黙のつながり、それらの関連に音楽を表す。筆者は、かつてリスト音楽アカデミーのマスター・クラスの室内楽のレッスンを見学していたが、クルターグのレッスンは、例えばトリオのレッスンでもヴァイオリニストの1音に1時間の大半を費やすといった厳密性をもったものである。だから、彼のレッスンを受けた演奏は、まるで言葉を語っているような深い自然な音楽となるのである。


コンチェルタンテ作曲の自室
 二人のレッスン振りは異なる。裕美さんは、ほとんど駄目だしのない、あれほど厳密なクルターグが、Jo!(ハンガリー語でよいの意)(Gut!)を連発する才能の閃きが際立つ。一方賢さんは、逐一、楽譜にその注意を書き込み、楽譜に白い部分が全く見当たらないとい生真面目さでレッスンに向かう。このような類まれな4者の音楽家たちの共同作業に、私たちは、感謝を捧げても捧げ切れない。クルターグは、初演の後、直ちにオファーのあった世界的なビオラニストの申し出に対して、2年間は、裕美と賢だけに演奏をさせるとそのオファーを断った。

 初演の<コンチェルタンテ>は、名作<...クワジ・ウナ・ファンタジア...>の輪廻のように作曲され、<...クワジ・ウナ・ファンタジア...>のように、旋法によるシンプルなピアニッシモのスケールに始まり、ピアニッシモのスケールで終わっていた。クルターグは、初演の演奏直後から作品の見直しに入り、かつてアムステルダムに在住していたクルターグは、アムステルダムを訪れる度に二人と検討しあって、現在のような形に改作された。

 2003年9月の初演以来、<コンチェルタンテ>は、以下のように再演を重ね、また、2006年も演奏が予定されている。なお、2005年10月にミラノのスカラ座で行った、スカラ座オーケストラとのコンチェルタンテの演奏が、イタリアの批評家によるBestコンサートに与えられる賞を受賞された。

(本リポートは、2月19日にコンサート後、ブダペシュトでお二人に行ったインタビューに基づいている。)
Fur Hiromi und Ken ...Concertante ...per violino solo, viola sola e orchestra Op.42

(ハンガリー語が正しく表示されない箇所がごさいますが、ご了承下さい。)

2003年初演来の演奏記録

日時
演奏都市名
国名
会場
演奏団体
指揮者名
2003.9.18 コペンハーゲン デンマーク デンマーク国立放送交響楽団 ミヒャエル・シェーンヴァント
2003.11.6 ボルドー フランス ボルドー・オペラハウス ボルドー・オペラ・オーケストラ ディエゴ・マソン
2003.11.13・14 アムステルダム オランダ コンセルトヘボー・大ホール          王立コンセルトヘボー・オーケストラ ラインベルト・デ・レーウ
2003.11.25 パリ フランス シテ・ドゥ・ラ・ムジーク 南西ドイツ放送交響楽団 シルヴィアン・カンブレラン
 
2003.11.28 バーゼル スイス   〃   〃
2003.11.29 フライブルク ドイツ   〃   〃
2004.3.6 マイアミ アメリカ ニューワールド・シンフォニー・オーケストラ ラインベルト・デ・レー
2004.6.6 ウィーン オーストリア ムージック・フェライン ウィーン放送交響楽団 ミヒャエル・シェーンヴァント
2004.6.12 東京 日本 サントリー・ホール 読売日本交響楽団 ゲルト・アルブレヒト
2004.8.22 ザルツブルク    (サマー・フェスティバル) オーストリア 祝祭劇場 ウィーン放送交響楽団 ベルトランド  ド・ビリー
2005.6.17 ブダペシュト  ハンガリー ナショナル・コンサートホール ハンガリー・ナショナル・フィルハーモニー・オーケストラ ペシュコ・ゾルタン
2005.10.2 ミラノ イタリア ミラノ・スカラ座 ミラノ・スカラ座オーケストラ ペシュコ・ゾルタン
2006.2.19 ブダペシュト   (クルターク生誕80年記念音楽祭) ハンガリー リスト音楽大学大ホール ハンガリー・ナショナル・フィルハーモニー・オーケストラ コチシュ・ ゾルタン
2006.5.13 ロッテルダム オランダ ロッテルダム・フィルハーモニー・オーケストラ ミヒャエル・シェーンヴァント
2006.5.18・19・20 ベルリン ドイツ コンチェルトハウス ベルリン・シンフォニー・オーケストラ ペシュコ・ゾルタン
2006.11.3 ウィーン オーストリア ウィーン・コンチェルトハウス ウィーン放送交響楽団 ベルトランド・ビリー
2006.12.6・7 トリノ イタリア ナショナル放送交響楽団Rai Torino 大野和士