遠いアジアの同胞 ハンガリーの暖かき心とともに
  ―福島コダーイ合唱団 ハンガリー演奏旅行―

宮城教育大学名誉教授 降矢美彌子
  福島コダーイ合唱団のハンガリー演奏旅行は、2012年3月の演奏旅行で4度目です。コダーイとは、コダーイ・ゾルターンはハンガリーを代表する作曲家、音楽学者、教育家で、今年はコダーイの生誕130年記念の年にあたります。合唱団は、このコダーイの名前をいただいて、コダーイの教育方法によって音楽を学び、人間教育としてのコダーイの理念を伝える活動をしてきました。島コダーイ合唱団教員合唱団、今年で創立25周年、コダーイ生誕130年のこの年、地震、津波、原子力発電所の事故で辛い思いをした福島の今を伝えるべく、パトロナ・フンガリエ高校(3月25日)、コダーイ記念博物館(3月26日)、バルトーク記念館(3月27日)での演奏会を企画したのです。バルトーク記念館は、コダーイと協同で民謡収集・研究の仕事に取り組んだハンガリーを代表する作曲家バルトーク・ベーラの住居だったところで、今は記念館とホールになっています。
コダーイ博物館演奏
  1981年からの30年間合唱の国ハンガリーから第一線の音楽家を12人以上お招きし、毎年ソルフェージュ・合唱指揮の講習会を行い、福島、仙台、東京他各地で30回を超える音楽会を行ってきました。また、国際音楽教育教会(ISME)や国際コダーイ協会(IKS)の等大会の演奏会で、オランダ、フィンランド、フィリピン、マレーシア、アメリカに大きな海外演奏旅行もしています。
  ハンガリーの音楽家は、3.11当初から音楽会を開いてカンパを集め、小学校では折り紙で鶴をたくさん折って被災地の小学校にお手紙とともに送ってくださったり、心の交流をとハンガリーの子ども達20名を派遣して被災各地の子ども達と交流したりしてくださったり、今も福島を心配してくださっています。

コダーイ夫人と
  コダーイ博物館やバルトーク記念館でハンガリーを代表する音楽家の方々を前にハンガリーを代表する作品の数々をハンガリーで歌うということは、実は震え上がるような大変なことです。コダーイ博物館では、コダーイ夫人がお迎えくださって、自らコダーイの収集した民芸品の数々や書籍、文房具、博士論文を手にとって、いろいろなエピソードまで説明してくださり、まるでそこにコダーイがいるような暖かい感慨に溢れて歌うことができました。コダーイ博物館でのコンサートは、コダーイ生誕130年、没後45周年記念の演奏会として、ハンガリー・コダーイ協会をあげて取り組んでくださいました。演奏会の開始にあたり、会長で日本の文化勲章にあたるコシュート賞受賞者のセーニ・エルジェーベト女史から、福島コダーイ合唱団と震災後の福島について心を込めたご紹介がありました。
  バルトーク記念館は、ブダペシュトのブダ側、閑静な住宅地の中にあります。1階がコンサートホール、2・3回が展示室です。バルトーク記念館にも彼が細やかに収集した美しい民族衣装、陶器、木彫の家具、ピアノ、昆虫採集の標本や植物の標本、まとった衣服や 文房具、珍しい懐中メトロノームなど展示してありました。コダーイもバルトークも農民の芸術、木彫や刺繍や陶芸、民謡などを深く尊敬したのでした。
バルトーク像の前で

クルターグ作曲「ことばとは何」
  バルトークに写真に囲まれての20世紀最高の傑作と言われる「児童と女声のための合唱曲集」27曲全曲演奏をしましたが、本当に感慨無量でした。ハンガリー語の意味が完全にわかる、ハンガリーの合唱団は、福島コダーイ合唱団からハンガリーの魂を学ばなければならないと言っていただいたことは最高の賛辞と言えましょう。2つの博物館で、現存する最高のハンガリーの作曲家クルターグ・ジェルジュ(1926−)の傑作、サミュエル・ベケットの遺稿による「ことばとは何」(Op.30/a)では、アップライト・ピアノを運ばせてくださり、始めから終わりまで弱音ペダルを踏みっぱなしで左手でピアノを弾き、右手で指揮をして演奏いたしました。言葉が言いたくても言葉が出ない、どもるようにあえぐように言葉とは何かと悲劇的に自問する内容の音楽で、まさに今の福島の気持ちです。在フランスのクルターグご夫妻が9回もレッスンして下さっての演奏、歴史的な世界の悲劇への思いから福島に至るまでの思いを、聴衆に深い感動を受け取っていただけたことは有難かったです。
  最後に、祈りとともに演じ歌った日本の伝統芸の獅子舞、いわきの「じゃんがら念仏踊り」、宮崎県の「刈り干しきり歌」を歌いました。涙しておき聴きくださいました。
25日は、バルトークの誕生日、25年来の親友モルドヴァーニュ・ツエチーリアさんの勤める高校で、高校をあげて演奏会を開いていただきました。保護者やお子さんでホールは鈴なり。獅子の頭に頭を噛んでもらうと邪気が祓われるというと数十名を超える方々が列をなしました。合同100名を超える合唱部との合同演奏も幸せでした。

パトロナ高校で

博物館夫人と共に
  3日間のコンサートには、コダーイ夫人、セーニ・エルジェーベト、ウグリン・ガーボル、ロズゴニュ・エーヴァ、イッツエーシュ・ミハーイ、アーブラハーン、マリアン、シェベシュチェーン・マールタ、ヘゲドウシュ・エンドウレ、コダーイ芸術研究所長、日本大使館ご夫妻、一等書記官、ジャパン・ファンデイション代表など著名な音楽家も多くいらしてくださいました。感動したからと2回いらしてハンガリーのポプリを贈ってくださった方もおられました。
世界は、様々に危機に瀕していますが、このように歌を通して暖かく繋がりあい手を取り合っていくのなら、きっと世界を平和にできるだろうと思えた3日間でした。美しい福島をともに取り戻して生きたいと帰路に着いたのです。なお、コシュート・ラジオ、テレビなど多くの取材がありました。