国際ワールドミュージック合唱フェスティヴァル 第5回Festival 500(カナダ)リポート

―多文化合唱を愛するニューファウンドランドの人々―

降矢美彌子(宮城教育大学)

Festival 500は、2年に1度、カナダのニューファウンドランド州セント・ジョン市などで開催されるワールドミュージックの歌と合唱の国際フェスティヴァルである。フェスティヴァルは、シンポジウム(研究発表、セッション、モデル演奏)と、フェスティヴァル(ワールド・ミュージック・シリーズと題される演奏会とワークショップ)で構成されている。2005年に開催された第5回Festival 500のテーマはSharing the Voices(声々の共有)、 6月30日から7月3日が国際シンポジウム、7月3日から10日が、国際合唱フェスティヴァルであった。

ワークショップで(筆者)

Festival 500は、1997年、カナダ発祥の地とされる、ニューファウンドランド500年を記念して、ニューファウンドランド・シンフォニー・ユース・クワイアの常任指揮者スーザン・ナイトによって設立された。Festival 500は、スーザンとカイ・アダムの他2名の芸術監督と彼らを含む9名の運営委員によって運営されている。常任ディレクター、ピーター・ガーディナーは、フェスティヴァル後、ニューファウンドランド・シンフォニーと合唱団を伴って広島を訪れ、エリザベト音楽大学の平和教育プロジェクトとして取り組まれたマリー・シェーファーによる「晩夏」(管弦楽曲(合唱、語り付)を同大ザビエルホールなどで初演した。この作品に、シェーファーは、原爆への反戦と抗議をこめたという。
ニューファウンドランド・シンフォニー・ユース・クワイアは、メンバー総勢220名(2005年7月)、7歳から18歳の子どもたちによる多文化合唱団で、近年は数々の国際合唱コンクールに優勝し、オーストラリア、スペイン、ブラジルなど各地で演奏を繰り広げている。フィンランドのエリッキ・ポヒョラの指導のもとタピオラ合唱団の伝統を受け継いでいて、民謡を歌い踊り、楽器を演奏し、クラシックの古典的なレパートリーを歌い、マリー・シェーファー、ステファン・ハットフィールド等、カナダの作曲家に積極的に作品を委嘱して、新しい合唱作品を世に送り出している。子どもの自主性を重んじ、合唱のみならず広く文化全般を通して子どもたちの人間的な成長を図るスーザンの指導力には、定評がある。スーザンは、多文化合唱を文化の育まれた地に赴き、現地の優れた指導者から直接学ぶことをモットーにしている。この合唱団の特筆すべき魅力は、ア・カペラのユニゾンの美しさであろう。フェスティヴァル初日の演奏会では、アイルランド民謡を、数分間、指揮者なしのユニゾンで歌い、その美しさは合唱の真骨頂と感じられた。

ヴェネゼーラ指揮者と

ニューファウンドランド・シンフォニー・

ユース・クワイア

Festival 500では、毎回特定の地域の音楽がフィーチャーされる。2003年は、アフリカ音楽、2005年は、南米音楽であった。ヴェネゼーラから、指揮者のMaria GuinandやAlberto Crau、混声合唱団Schola Cantorum de Caracas やパーカッショニストFreddy Mirandaが、アルゼンチンから、指揮者のAna Beatris Fernandez de Brionesと女声合唱団Coro de Ninos y Jovenes Ars Novaが、プエルトリコから、混声合唱団Coro De Conciertoが、メキシコからLe Camerata De La Neuva Espanaが、また、ラテンアメリカ・ヴォーカル・アンサンブルDe Boca En Bocaも招聘され、弾むリズムやパワフルな音楽で聴衆を魅了した。特にAna Beatris Fernandez de Brionesと女声合唱団Coro de Ninos y Jovenes Ars Nova -Salta、Argentinaの演奏の民族性と芸術性の高さには、心の底からの感動を覚えた。
2005年の第5回Festival 500には、世界の各地から50を超える合唱団が参加し、連日、ワークショップとコンサートでにぎわった。昼間は、8種を越えるワークショップ(参加者の便宜を図るため、毎日同じものが2回ずつ行われた)や、様々な場所での参加合唱団による市民のための無料コンサートが行われ、夜には、芸術文化センターや2つの教会で有料のワールドミュージックによるコンサートが行われた。Festival 500には、世界に名高い合唱指揮者、Maria Guinand(ヴェネゼーラ), Alberto Crau(ヴェネゼーラ)、Tonu Kaljuste(エストニア), 他5名が、ワークショップやプレゼンターには、合唱指揮者Ana Beatris Fernandez de Briones(アルゼンチン)、シンガー・ソングライターで指揮者のMelanie DeMore他14名が招聘され、非常に多彩で豪華な内容が盛り込まれていた。筆者も、日本やアジアの民俗音楽のワークショップを、毎日2回ずつ計8回行った。日本からは、宮城県白石女子高等学校の合唱部(含卒業生)が参加し、アイヌや沖縄の民俗音楽を含む多文化音楽を披露し、特にコダーイ・ゾルターン作曲「山の夜」の演奏で絶賛を博した。また、被爆60周年を記念してこのフェスティヴァルのために、本間雅夫氏に委嘱した女声合唱「8月歌」の初演を行ったことは意義深いことであった。

招聘された助言者たちと

Festival 500の指揮者でニューファウンドランド・シンフォニー・ユース・クワイア指揮者スーザン・ナイトと筆者

私が、Festival 500について特に素晴らしいと感じたことは、このフェスティヴァルが、ニューファウンドランド・シンフォニー・ユース・クワイアの地域に根ざした合唱運動と国際フェスティヴァルという二輪の活動として市民生活に根付いていること、スローライフを自認するニューファウンドランドの人々の合唱好き(音楽好き)なこと、(大きなコンサートは、1年前からチケットが売り切れるほどで、有料にもかかわらず、どの会場も満員であった)、参加合唱団が、クラシックから、民謡、ゴスペル、ジャズというレパートリーをもつ多文化合唱団で、歌う楽しさに溢れていたこと、ワークショップは、子どもから大人まで参加自由で、子どもたちも音楽教育者になどにまじって、対等に楽しんでいたことの4点であった。その自由で自然な学びは、日本にも望まれる形であろう。
私は、今回初めてヴェネゼーラやアルゼンチンの合唱を聴き、その合唱指揮に触れることができたが、レベルの高さや音楽の喜びに溢れたものであることに驚嘆し、日本にももっと西洋に偏らない、世界の各地の合唱音楽が紹介される必要があることを実感した。次回は、2007年7月に開催される。是非、多くの方が参加されるとよいと感じている。

フェスティヴァルは、カナ政府やニューファウンドランド州、カナダ航空やCBCラジオ局、多くのカンパに支援を受けて運営された。(姓名や合唱団の読み方の間違いのないよう、一部原語で記しましたが、フォント上表記に誤りがあることをお詫びいたします。)

参加合唱団