バリ島の音楽文化による授業設計

1.他教科との連携
DVDバリは,音楽科に加えて,以下のトピックを扱って,他教科と連携した授業を行ったり,総合的な学習の時間の中で活用したりすることができる。
1. 国語科    インドの叙事詩ラ−マヤナの物語(未収録)
2. 社会科   熱帯性気候や珊瑚礁の海に囲まれた風土,火山,祭り仲間組織,
        米の多毛作儀式
3. 家庭科 
   市場,料理,お供えづくり,台所,服装
4. 図画工作科 バリ舞踊の衣装,ワヤン人形の造形,仮面
5. 体育科     バリ舞踊の踊り方の基礎
6. 道徳       二元論における善悪の考え方,魔女ランダ
7. 環境教育  珊瑚礁の保護
8. 総合的な学習としてそれらの複合学習
DVDバリには,音楽科と体育科における実技体験の学習マニュアルとバリ島の文化全般,特にヒンドゥ−教の祈り,二元論の考え方,自然と暮らしの情報が収録してある。その他の教科についても,例えば,ケチャなどの実技体験を手がかりにして,文化,自然観や考え方などの理解へと進むように,音楽以外の情報を活用してほしい。
2.授業のねらい
 授業のねらいとしては,バリ島の音楽文化が示す,以下の5点の異文化性を体験することがあげられる。1) 音楽に現われた二元論の考え方(コテカンの奏法),2) 時の周期,3) 様々な仕掛けによる指揮者のいないアンサンブル,4)神への捧げものとしての芸能のありかた,5) 芸能によるトランス。
ケチャやガムランは,友達に依存しない自立した心と友達とコミュニケ−ションする力,そして,自分が声や音を出しながら他の声や音を聞く力が前提となる。この3つの力は,どの音楽文化でも必要な力であるが,ケチャやガムランの場合は,この3つの力がないと成立に困難がある。常日頃育成して準備する必要がある。この3つの力は,学習の前提であると同時に学習目的でもある。
 ケチャの場合,思春期の生徒にとって,ケチャの声を出すこと自体に抵抗感が大きいので,日頃から異文化に対する抵抗感を払拭する試みが必要である。教師の<第二次継承者>としての声の出し方の提示が非常に重要となる。
 ケチャを学習する場合,バリ島の音楽文化の異文化性の学習を目的とする多文化音楽教育の場合,パタ−ンの合唱に終わらせないという視点は重要である。短縮版であっても動作をつけて,入場,祈りを含めた上演スタイルをとる姿勢が求められる。その際,衣装や花などを身につけることは,学習者にとって学習への意欲づけとして有効である。準備物としては,1) 文化を育んだ亜熱帯の気候,珊瑚礁の美しい海岸など,気候風土を理解するための優れた写真や映像,2) ガムランの楽器や口琴,アンクルンなど諸楽器,3) お香やバリ島の食べ物,4) お供えとしての南の花々,5) 衣装,カインやクバヤ,ケチャの衣装など,6) ケチャ全編の映像資料[1]
3.バリ島の音楽文化の教材DVDを用いた授業モデル
 バリ島の音楽文化の教材DVDを用いて,ケチャを題材として以下の学習過程による授業モデルを組み立てることができる。
 バリ島の芸能を学ぶキ−ワ−ドは,自立とコミュニケ−ション力,互いを聞く力である。このキ−ワ−ドは,学習の到達目標でもある。この3つの力を,常日頃,育成する必要がある。これらの3つの力がある程度育っていないと,バリの芸能を楽しむことも演ずることも難しい。自立とコミュニケ−ション力,互いを聞く力は,ケチャの学習の目的でもある。
 ケチャの学習は,ケチャを支える諸要素,つまり自然,生活,生活習慣,宗教などと切り離すことなく,総合的に学ぶ必要がある。ケチャの学習において,西洋の拍子とは異なる概念である<時の周期>を絶えず感じることが大切である。「展開の第二段階:異文化性の学習1」において,DVDバリを用いて<時の周期>を表すガムラン楽器を聴いたり,二元論の生活や芸能における現われの例としての魔女ランダの映像を見たり,生と死が共存した形で行われる葬式の映像を見ることもバリ島の音楽文化の異文化性の理解する上で有効である。
 また,ケチャの学習をパタ−ンの合唱に終わらせないことが重要であると考える。入場,祈りを含めて,衣装や花をつけ,動作も行なって,短縮版であっても芸能としてのケチャの総体を体験するようにしたい。
 1. 導入:日本とは異なる熱帯の島,バリ島への導入
1) バリ島のお香をたき,ゆったりと気持ちと身体をリラックスさせる。寝転んだり,ヨ−ガなど試みたりするのもよい。

2) 導入として,DVDバリからバリ島の自然や芸能の映像を少し鑑賞する。
3) 気候風土,芸能の違いについて,自由に感想を話し合う。
4) 二人一組になり,背中を合わせて胡坐をかいて,教師の<第二次継承者>としての8拍周期の身体のゆれを模倣しながら,チャッツ チャッツ チャッツ チャッツとお腹から声を出す。コミュニケ−ション体験1。
5) DVDバリの映像からケチャを少し見る。
6) 特徴的なこと,気づいたこと,この芸能が何を目的にしているかを考える。
 2. 展開:
第一段階:異文化性の学習1  神への捧げものとしての芸能・入れ子のリズムの創造学習
1) DVDバリの上演のモデルを見て,最初の祈りの場面を模倣する。
2) 生徒の日常にある祈りについて話し合い,芸能における祈りの意味について考える。
3) ケチャの入れ子のリズム(コテカン[2])を体験するために,二人一組になって,入れ子のリズムを作って合わせる創造的な音楽学習を行う。コミュニケ−ション体験2。
4) <コテカン>のリズムがバリ人の二元論の考え方から来ていることを話し,DVDバリから魔女ランダとお葬式の映像を見せ,芸能や儀式に現われた人々の考え方について話し合う。

第二段階:異文化性の学習2  ケチャの伝承法にのっとったパタ−ンの学習
1) バリ島の伝承法を学ぶためにDVDから,子どものガムランと舞踊のレッスンの映像を見る。
    2) 五線譜を用いない口から口,身体から身体へという伝承方法について話し合う。
3) DVDの映像から伝承者を見てケチャのパタ−ンの学習を行う。パタ−ンの学習は,必ず<時の周期>を聴きながら行う。<時の周期>[3]の説明を行って,もとになっているガムラン楽器の<時の周期>を聴く。コミュニケ−ション体験3。
4) 一度に全部のパタ−ンを学習させるのではなく,生徒の能力に応じて負担にならないようにパタ−ン練習し,よく聴き合い,コミュニケ−ションしながら<時の周期>を聴いて合わせていく。パタ−ンは,    加算式に合わせていく[4]。西洋式にまとまったグル−プに分けて,1つのグル−プに1つのパタ−ンという形で練習をしない。コミュニケ−ション体験4。
5) パタ−ンの学習は,できればトランスの擬似を体験できるところまで,熟達させる。コミュニケ−ション体験5。
6)  暮らしの中にある考え方が,ケチャのパターンの入れ子のリズムに反映されていることについて話し合う。
第三段階:異文化性の学習3  生活における祈りの意味とケチャの成立,芸能の現代化について学ぶ
1) DVDバリから,お供え作りなど生活の中の祈りの映像を見て,もう1度祈りについて考え,芸能を捧げるという意味を考える。
2) 可能なら,CD-ROM椎葉から神楽,CD-ROM竹富の種子取祭の芸能を見て,日本の芸能も神に捧げる芸能であることを学び,バリ島の芸能との類似点について気付く。
3) 可能なら,CD-ROM竹富などによって琉球音階による民謡を聞き,バリ島の音階と沖縄の音階との共通性に気付く。
4)  DVDバリからバリ舞踊を見て,バリ島の伝統的呪術の中に,舞踊が   取り入れられでケチャが成立したことを学ぶ。ケチャ成立の助言者ウォルタ−・シュピ−スWalter Spies)[5]の仕事や,バリ・ルネサンス,伝統の現代化について学ぶ。
  3. まとめ:ケチャの上演の体験
耳に紅白の花をつけ,入場,祈り,ケチャの合唱などDVDバリの上演見本のように,できれば衣装を着けて演ずる。ケチャの衣装である腰巻の白と黒の格子柄は,白,正義,黒,邪悪を表していることを説明する。


[1]幾つかは,輸入雑貨店,楽器店,インドネシア料理店などで,入手が可能である。
[2]バリ島の音楽に特徴的な入れ子のリズム。インタ−ロッキング奏法。
[3]西洋の拍子と異なる時間の枠組み。ゴング類が担当する。1拍が同時に8拍であるとい う独特の拍感をもつ。8拍周期や16拍周期が多いとされる。
[4]ケチャのこの指導法は,グヌン・ジャティ歌舞団がワ−クショップで行なう指導法である。
[5] ドイツ人の画家,音楽家で映像作家でもあった。1930年代に伝統的な呪術サンヒャン に,インドの叙事詩ラ−マヤナ物語と女性の舞踊を組み合わせてケチャを創ることを助言 した。